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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1456号 判決 1963年11月05日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木於用の上告理由第一点について。

論旨は、商法一条を論拠として、運送取扱又は運送につき、運送品が滅失又は毀損した場合に民法の不法行為の規定を適用する余地がないと主張し、これを前提として原判決の違法をいう。

しかし、運送取扱人ないし運送人の責任に関し、運送取扱契約ないし運送契約上の債務不履行に基づく賠償請求権と不法行為に基づく賠償請求権との競合を認めうることは、大審院判例(大正一四年(オ)第九五四号、同一五年二月二三日判決、民集五巻一〇八頁)の趣旨とするとおりであつて、当裁判所もこれを認容するものである。それゆえ論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、前記の場合債務不履行に基づく賠償請求権に不法行為に基づく賠償請求権が競合することを認めうるとしても、これが認められるのは、運送取扱人ないし運送人の側に故意又は重過失の存する場合に限られるべきであるのに、原判決は、故意にあらざることを判示しながら、右過失の軽重につき何ら判示することなく、たやすく不法行為に基づく賠償請求権の成立を認めたのは違法であると主張する。

しかし、右請求権の競合が認められるには、運送取扱人ないし運送人の側に過失あるをもつて足り、必ずしも故意又は重過失の存することを要するものではない。

原審認定の事実関係によれば、上告会社呉支店の係員は、本件貨物を預け入れた破産会社の承諾がないのに拘らず、何ら先に破産会社に宛てて発行交付した判示受取証を回収するとか破産会社の承諾を確認するに足る取引上相当の措置を講ずるとかすることなく、原判示の如く漫然電話による同意ありと誤解して、原判示民団に対し本件貨物を引渡し、よつてこれを滅失したのと同一の結果を生ぜしめたというのである。してみれば、原判決がこの点において上告会社呉支店係員に過失の責があるとし、これによつて生じたかかる事態は運送品の取扱上通常予想される事態ではなく、且つ契約本来の目的範囲を著しく逸脱するものであるから、債務不履行に止まらず、右係員の過失に基づく不法行為上の損害賠償請求権の発生をも認めうるとした判断は、首肯することができる。原判決には、所論の違法なく論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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